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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)1948号 判決 1979年5月18日

原告

株式会社森山製作所

被告

山岡岸泰

主文

1  被告発明にかかる別紙目録記載の連続混練機について、原告が被告からの譲り受けを原因として「特許を受ける権利」を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

1  請求の趣旨

主文同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  本案前の答弁

1 本件訴を却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(2)  本案に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 請求原因

(1)  原告は混練機(混練機、捏和機またはニーダともいう)、強化プラスチツク成型機の製造販売を業とする株式会社である。

(2)  被告はかつて原告会社に勤務していた技術者であつて、その経歴は次のとおりである。

第1回入社 昭和42年1月6日設計課員

同年7月31日退職

第2回入社 同44年1月26日三田工場次長

同45年9月本社設計課長

同48年3月22日同設計部長

同49年6月20日退職

なお、上記退職後直ちに城東化学工業株式会社に勤務し、同50年1月15日同社も退職。

(3)  被告は上記2回目の在職期間中、連続混練機に関する研究に従事し、おそくとも原告会社を退職する以前に別紙目録記載の発明(以下、本件発明という)を完成したうえ、退職直後の昭和49年7月1日自己の名でその特許出願をした。

(4)  そして、被告の上記発明は、後にも述べるとおり、その性質上原告会社の業務範囲に属し、かつ、発明をするに至つた行為が原告会社における被告の現在(ただし、被告在職当時の時点での現在)の職務に属する発明、すなわち、いわゆる職務発明である(特許法35条1項参照)。

(5)  しかるところ、原告会社においてはかねてより就業規則で「(従業員は)事業上なした発明又は研究に関してはその調書を作成し、会社に提出すること。この場合会社はその権利を取得する。」旨規定されており(昭和38年8月1日以降施行の旧規則では4条(3)、同46年5月1日施行の現行規則では9条6項)、上記就業規則はもとより被告をも拘束するものである。そして、上記の規定は、原告会社とその従業員が、将来従業員によつてなされるであろう職務発明について、原告会社が「特許を受ける権利」を当該発明の発明者から当然譲り受けることをあらかじめ約束したいわゆる停止条件付権利譲渡契約条項にほかならない。

(6)  以上のとおりであるから、本件発明に関する「特許を受ける権利」は発明完成の当初から原告会社に属しているものである。

(7)  本件発明が職務発明であることは次のような事情によつて明白である。

①  原告は昭和45年3月会社の事業として連続混練機の研究開発に着手した。その経緯は次のとおりである。すなわち、

1 原告がかねてから社業として製造してきた混練機はゴム、合成樹脂、塗料顔料、チヨコレート等を製造する工程で必要な粘稠材料の捏和(混合)に用いる機械にほかならないが、従来の混練機は混合槽の中に混合材料を入れ、これを上記混合槽内部に取り付けられたブレード(羽根)を回転させることによつて混合し、混合の完了した材料はその都度混合槽をさかさまにすることによつて取り出す方式のものであるから、連続的に大量に材料を製品化することが技術的に不可能であつた。

2 そこで、原告は、上記のような従来装置の欠点を克服するため、一方の入口から混練材料を注入し、内部で多数の羽根のついた1本ないし数本のスクリユーを回転させることによつて、材料を混練しながら、徐々に他方の出口に導き排出させる法式の連続混練機の開発を企図し、昭和45年3月頃からその研究開発に着手したのである。

②  そして、被告は上記研究開発に関する最高責任者であつた。すなわち、

1 原告代表者森山正夫は当初こそ単独で調査するにとどめていたが、その後昭和46年12月に至り、当時における原告会社技術部門最高責任者(本社設計課長)であつた被告に対し口頭で新年(昭和47年)から前記のような新方式の連続混練機を研究開発するよう具体的に命じた。

2 しかし、被告には顧客の注文に応じ従来機の設計図を作成する仕事もあつたので、直ちには上記命令に応ずることがなかつたが、昭和48年当初からは研究開発の中核となつて働らいた。

すなわち、原告は昭和48年1月13日三田工場において、全社レベルの合同会議を開催し、連続混練機のテスト機1号を試作することを策定し、その担当者として、原告代表者、設計課長である被告、大井設計課員を決めた(甲7号証)。そして、その設計は主として被告(同年3月から組織改正により設計部長に昇格)と大井が本社で担当し、現に被告は設計図面の検図もしている。やがて、図面は完成し、テスト機の製作は被告から富永製造部長に対する同年10月3日付け製作指図書により三田工場で始められ、翌49年2月には一応その完成をみた。その間、同年1月14日、三田工場で再び全社レベルの総合会議が行われたさいには、被告は自ら設計部長として昭和49年度設計開発計画について説明を行い、「近日中に連続混練機のテスト機の性能テスト等を行う」旨述べている(甲8号証)。また、被告はテスト機の完成が近づくと度々組立現場を訪ねて、進行の管理を行い、完成後においても、自ら陣頭に立つて各種の試験を精力的に行つた。そして、上記テスト機の製作費は、試験に要した経費を含めると2,000万円以上にのぼつた。

③  原告は被告の連続混練機研究開発について次のような便宜を供与している。

1 原告は内外の技術資料として多数の和洋技術雑誌を購入しておりこれらはすべて設計部員が利用できるように開放されていた。以下列挙するものはそのうちの一部である。

「工業材料」日刊工業新聞社発行

「機械設計」日刊工業新聞社発行

「プラスチツク マテリアル」ザ・プラスチツク社発行

「ラバーダイジエスト」ラバーダイジエスト社発行

「MODERN PLASTICS INTERNATION-AL」McGraw-Hill, Inc;発行

(50, avenue de la Gare, 1003 Lausanne, Swit-zerland)

「PLASTICS. WORLD」Cahners Publish-ing Co; Inc.発行

(221 Columbus Avenue Boston. MA 02116 U. S. A)

「PLASTICS TECHNOLOGY」Rubber / Antomotive Division of Hartman Communicat-ions, Inc.(633Third Ave., N. Y., N. Y., 10017U. S. A)発行

2 また、被告は原告会社の従業員として、国際見本市等において他社の製品を見学する機会を与えられ、また、原告会社が収集した内外他社の製品カタログを閲覧してきている。

④  ところで、被告の本件発明の示している技術思想は前記テスト機のそれと同一であり、このことは本件発明が被告の職業発明であることを如実に示すものである。いまこの点を敷衍すると次のとおりである。すなわち、

1 被告が最高責任者として製作した原告会社のテスト機の構造は別紙図面(第1図)のとおりであつて、これを説明すると次のようになる。(なお、上記図面中の第2図は円周方向を直線に伸長した作用図であつて、(Ⅰ)は広い場所、(Ⅱ)は狭い場所を示し、5は回転体、6は固定容器、9は回転体上の山である。第2図によつて、圧縮力は材料が(Ⅰ)から(Ⅱ)へ押しやられるときに生じ、剪断力は(Ⅰ)から(Ⅱ)を通過しえた材料と通過しえなかつた材料とに分れるときに生ずることがわかる。)。

(イ) 固定容器型であつて、混合道具付の回転軸が水平に取付けられた構造のニーダである。特許庁分類(甲20号証)に従えば、第27類B321.2、すなわち、こねまぜまたは液体と固体の混合装置であつて、混合容器が回転せず水平軸の周りを回転する混合道具付のもので複軸型のものに属する。

(ロ) 回転軸駆動源(右側面の部分断面図において右側)に近い方に材料投入口(7)を設け、材料が概ね軸方向に沿つて先端へ向つて移送され、回転軸先端部に材料排出口(8)を設けている。

(ハ) 回転軸は、材料投入口(7)の根元側と、材料排出口(8)の先端側で軸受により固定容器に支持されている。

(ニ) 材料投入口(7)から投入された材料は、スクリユーにより混練室へ圧入され、この混練室において容器(6)内を回転体(5)が回転することにより材料に圧縮力並びに剪断力が加えられて混練作用が進行してゆき、やがて排出口(8)から排出される。この材料の投入、排出は連続的に行われる。

(ホ) 容器外周に熱媒流体貫流用ジヤケツト(10)を備えている。

(ヘ) 回転軸の中芯に二重管を形成し、回転軸先端に設けたロータリージヨイント(11)を通して熱媒流体を回転体内に貫流させることができる。

(ト) 回転体に付された混合道具の形状が、回転円柱上に材料を軸方向に進める向きの山と材料を戻す向きの山とを形成し、行きつ戻りつさせながら材料をこねまぜるよう設計されている。

(チ) 排出量を制御するため、混練室後端と排出口の間に三角形らせん溝より成る排出調整部(12)が設けられている。

2 しかるところ、本件発明は上記テスト機の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)の各構成をそのまま構成要件中に包含するものである。相違点は、本件発明においては(ト)の回転体に付された混合道具の形状として、「回転円板(13)上に放射状の山(30)、(32)を形成したものを三個積層配設した構成」を採用している点(なお、本件発明の説明に付する番号はその特許出願明細書による。以下同じ。)と、本件発明においてはテスト機の(チ)の構成を何らその要件としていない点である。しかし、(ト)の点の相違については、従来から混合道具の形状として各種各様のものが公知であつたことからすると単なる設計上の微差にすぎないし、(チ)の点はテスト機にのみ附加された構造であるから両者の比較上問題にすべき点ではない。なお、テスト機は(イ)でも明らかなように二軸式となつているところ、本件発明では単軸式とも2軸式とも特定していないから、この点の構造も比較の対照とすべきではない。

⑤  以上のような点を総合して考えると、被告の本件発明が原告会社の業務範囲に属することは明白であるし、その発明をするに至つた行為が原告会社における被告の職務に属していたか否かの点についても、もともと「発明をするに至つた行為」そのものが主として思索等の精神的活動であつて通常は客観的に認識し難いところであるため不分明の点もあるけれども、本件ではこれを肯定するに十分である。

(8)  しかるに、被告は、原告が本件発明につき「特許を受ける権利」を有することを争うので、その旨の確認を求めるため本訴に及んだ。

4 被告の本案前の抗弁

本件訴は次の理由により不適法である。

(1)  まず、本件確認訴訟裁判によつて原・被告間の紛争が即時解決されるわけではないから、本件訴には確認の利益がない。すなわち、原告の主張によれば、原告は、被告が完成した本件発明につき「特許を受ける権利」を被告から譲り受けこれを保有することの確認を求めるというのである。しかし、本件発明についてはすでに被告において特許出願ずみであるから、その特許を受ける権利の承継に関しては次のような規制を受けている。すなわち、特許法34条1項によれば、出願前に承継された特許を受ける権利は当該承継人(本件では原告)が出願しないかぎり第三者に対抗できないが、出願後の権利承継(ただし、一般承継を除く)についてはその旨を特許庁長官に届け出なければその効力を生じないことになつている。したがつて、原告は本件訴訟で勝訴しても、それだけでは特許を受ける権利承継人の地位を取得するわけではない。このことはとりもなおさず、原告が本訴で求めているような確認判決を得る法律上の利益を有していないことを示している。

(2)  次に、原告の主張によれば、本件発明につき特許を受ける権利は被告が上記発明を完成すると同時に原告が当然取得したというのであるから、被告は当初から特許を受ける権利を有しなかつたものである。そうすると、被告がした特許出願はいわゆる冒認出願である。ところが、冒認出願は特許異議の申立(特許法55条、49条4号)または特許無効審判請求(同法123条1項4号)という法定の不服申立手続およびこれに続く特許行政訴訟手続によつて是正されるべきものであつて、民事通常裁判所が直接その審理をすることは許されない。

5 請求原因に対する答弁

請求原因(1)(2)項は認める。(3)項中、本件発明完成時期の点は否認するがその余の点は認める。(4)項は否認する。ただし、被告の本件発明がその性質上原告会社の業務範囲に属することは認める。(5)項中、原告会社に原告主張のような就業規則の定めが存することは認めるが、その余の事実は否認する。(6)項は争う。(7)項中、①の1、④の1の柱書中括弧内のテスト機のこねまぜ作用に関する部分と(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(チ)の記載、同2のうちテスト機の(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)の各構成が本件発明の構成要件に包含されることと(チ)の点に関する原告の見解は認めるが、その余の事実は争う。

6 被告の主張

(1)  被告の本件発明は職務発明ではない。すなわち、本件発明は原告の業務範囲に属する発明ではあるが、被告の発明をするに至つた行為は被告の職務に属していなかつた。

1 まず、被告は原告会社勤務期間中に本件発明を行なつたわけではない。すなわち、被告は原告会社に勤務する10数年以前から一貫して混練機の設計に従事しており、特に昭和36年から勤務したエノモト造機株式会社においては機種にして50以上の混練機の設計をした経験を持つている。

本件発明の着想も、石臼の原理を連続混練機に応用できないものかと原告会社に勤務する以前から常常頭にあたためつづけてきたものであり、原告会社在職中は発明研究の時間的余裕はなかつたが、退職後この構想を一挙に模型化し、昭和49年6月27日一応発明を完成したものである。

発明を具体化した時期が如何にも短かくみえるのは前記のような事情があるからであり、しかも、被告は出願を急ぐあまり、発明未完成のまま出願してしまつた。すなわち、被告は出願後である昭和49年7月27日本件発明の実施品である試作機を完成試運転したところ、材料の流れが思わしくなく、この発明は実用上未完成であることが判明した。そこで、その後、改良に改良を重ねてやつと実用上充分な使用に耐え得る連続混練機を完成し、昭和50年11月25日にその改良機につき再度特許出願した(乙4号証)

2 次に、原告は原告会社が研究開発したテスト機に関係づけて本件発明が職務発明であることを裏付けようとしているが、その主張も事実に反する。すなわち、

(A)  被告は原告会社のテスト機研究開発には直接当つておらない。上記テスト機は原告代表者森山正夫が考案し、設計課員大井が指示に従つて作図したもので、被告は単に作図管理者であつたにすぎない。それが証拠には、テスト機に関する実用新案登録出願の考案者、出願人とも森山正夫個人の名義となついる。(甲18号証)。もし、被告や大井が実質的に開発に従事していたのであれば,該出願の考案者は森山、大井、被告の3名、出願人は原告会社となつているはずである。

(B)  また、そもそも被告の本件発明と原告のテスト機とはその構造、作用(こねまぜ作用)において全く相違するものである。すなわち、

テスト機もこれに含まれる従来装置では、回転体にのみ羽根(ブレード)と称される混練道具が付されているにすぎないが、被告の本件発明に係る連続混練機では、回転体(駆動主軸(2))に回転円板(13)が固着されているとともに、その回転円板(13)に対応して装置本体(50)側にも固定円板(14)が装備されており、この回転円板(13)と固定円板(14)との相互作用により、混練作用がなされるものであり、回転円板(13)と固定円板(14)とが対になつて1つの混練道具が形成されているものであり、回転体(駆動主軸(2))のみに混練道具が付されているものとは異なる。

また、テスト機もこれに含まれる従来装置では、材料を軸方向に進める向きの羽根(ブレード)と、材料を戻す向きの羽根(ブレード)とにより、材料を行きつ戻りつさせながら材料をこねまぜるものであるが、被告の本件発明に係る連続混練機では回転円板(13)の前後両面に形成された放射状の山(30)、(32)と谷(43)、(43)、及びこれに対応する固定円板(14)、(14)の山(29)、(33)と谷(39)、(40)とが、あたかも石臼のように回転したさいに生ずる材料に対する圧縮作用と剪断作用とにより材料をこねまぜるものであり、回転円板(13)の前面(投入口側)では材料が放射状に拡散し、回転円板(13)の後面(排出口側)では、材料が駆動主軸(2)に向けて集中するように、各々の山(29)(30)(32)(33)と谷(39)(40)(43)(43)の位相が設計されていて、材料が投入口側から排出口側に向けてほぼ一方向に移送される間に、複数個の回転円板(13)と固定円板(14)間を通過してこねまぜられるのである。

(2)  かりに本件発明が職務発明であるとしても、原告主張の就業規則はその特許を受ける権利承継の根拠となるものではない。すなわち、

1 まず、上記規則自体同法同条2項に違反し無効である。けだし、上記の定めは、広く、従業者が「事業上なした発明」についてすべて会社がその権利を取得する旨定めるものであつて、これは、「職務発明」にかぎりいわゆる承継予約を認め、他はこれを認めず無効とした前記法条項に違反すること明らかであるからである。

2 かりにそうでないとしても、規則の定めは、従来員が発明を完成し、原告会社に調書を提出すると、当該従業員の特許を受ける権利が当然に原告に移転することを定めたものと解すべきではなく、発明者従業員と原告会社間で譲渡に関する本契約を締結してはじめて移転するものと解すべきである。けだし、そうでないと(イ)特許法が発明者保護のため、権利発明者帰属主義を採用している趣旨にも反するし、(ロ)また、同法35条2項は職務発明にかぎり承継の「予約」を有効と認めたもので、当然承継または使用者の原始取得の定めまで有効と認めたものでないと解すべきことに反し、規則自体が上記法条項に照らし無効となつてしまう。(ハ)さらに、実際問題として、使用者は従業者の発明について使用者の営業に役立つか否かを吟味することなく必要でない発明についてまで特許を受ける権利を取得させられることになり、かえつて、使用者にとつても不合理な結果となる。

しかるところ、原・被告間には前記のような譲渡に関する本契約は締結されていない。

3 かりに前記主張が認められないとしても、一般に、特許を受ける権利の譲渡がなされる場合には譲渡人(発明者)は相当の対価の支払を受ける権利を有している(特許法35条3項)。したがって、譲渡契約においては対価の支払いについて約定することが契約が有効に成立するための必須の要件と解さなければならない。しかるに、原告主張の就業規則は対価について何ら定めていない(もつとも、原告は昭和45年7月2日付回覧によつて対価の支払を規定し従業員に周知させた旨主張するが原告の主張する金額は単なる褒賞金程度のものに過ぎず到底同法条にいう相当の対価ということのできないものである。)。

4 かりに以上の主張も認められないときは、同時履行の抗弁を主張する。すなわち、被告は前記のとおり原告に対し相当対価の支払請求権を有するのであるから、上記の支払いを受けるまで特許を受ける権利の引渡しを拒絶する。

7 原告の反論の1(被告の本案前の抗弁に対して)

本件確認の訴は適法である。(1)原告はもし本件勝訴判決を得れば、特許庁長官に対し出願人名義変更届出をするさいに必要な譲渡を証明する資料としてこれを提出することができるから、本訴に確認の利益が存することは明らかである。(2)また、いわゆる冒認出願とは「発明者でなく、かつ、その発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願」を指すところ、被告は本件発明の発明者にほかならないからその出願は「冒認出願」とはいえない。したがつて、被告の出願が冒認出願であることを前提とした被告の主張も理由がない。

8 原告の反論の2(被告の6の主張に対して)

(1)1 被告の6(1)1の主張に対して

被告の主張によれば、被告は本件発明に着手したのが原告会社退職後である昭和49年6月21日で、完成は同年同月27日であるということになるのであるが、僅か7日間で発明が完成されたというようなことはとうてい信用することができない。場合によればそのようなこともあろうが、被告の本件発明にかぎつていえば、(イ)本件発明は単なるアイデイア発明ではなく、実施例が細部構造に至るまで極めて具体的であつて完成までに何回かの設計的思索が繰返された労作とみるべきであるし、(ロ)一般に、発明の着想から完成までの期間はごく稀にみられる多発明型人間においては非常に短いこともありうるが、被告は昭和47年1月1日から当該発明に至るまでの2年6カ月間においても出願に結びつくような発明もしくは考案を1度も行つていない。しかも、原告会社を退職し、城東化学工業株式会社に入社した当初は、同社における被告の地位、研究体制ともに固まつておらず能率的に発明を行いうるような状況にあつたとは考えられない。

もともと、被告は原告会社がテスト機を試作実験するなど連続混練機の研究開発のさなかである昭和49年5月17日に突然辞職届を提出し、夏季ボーナスの支払を受ける直前の同年6月20日退社しているのであつて、その行動からみても、被告の前記のような主張は信用できない。

2 被告の6(1)2(A)の主張に対して

ここで被告の主張する実用新案(甲18号証)はテスト機そのものを実施品とする考案ではなく、テスト機実験の結果粘稠物の排出が円滑に行われなかつたので、原告代表者がさらに上記の欠点について改良を重ねた考案に関するものであるから、被告の主張はその前提においてすでに誤つている。

(2)1 被告の6(2)1の主張に対して

原告の就業規則にいう「事業上なした発明」とはまさに職務発明を指すものである。かりに上記にいう事業上発明が職務発明より広い概念であるとしても職務発明をも包含することには異論はないはずであるから、職務発明に関する限りこれを適用しても何ら特許法35条2項に違反しない。

2 被告の6(2)2の主張に対して

特許法35条2項がいわゆる予約承継に関して定められたものであるとの被告の主張自体には異存はないが、ここに予約承継または承継予約とは(イ)当然承継を定めた契約または規則と、(ロ)従業者が発明完成後改めて譲渡義務を負担することを定めたそれとを含む趣旨であると解すべきである。したがつて、原告の規則はその前者にいう規則としてもとより有効である。

3 被告の6(2)3の主張に対して

原告会社は昭和45年7月2日特許を受ける権利譲り受けの対価について回覧によつて、金賞10万円、銀賞3万円、銅賞1万円、アイデア賞3千円と定めていることを従業者に周知させている。

4 被告の6(2)4の主張に対して

被告には被告主張のような同時履行の抗弁権はない。特許法35条3項の規定をもつて、個々具体的な特許を受ける権利譲渡契約におけるその譲り受けと対価支払いとの間に有償双務の牽連性を認めるための根拠条文とすることはできない。

9 証拠

(原告)

(1)  甲1号証の1、2、2号証の1、2、3ないし11号証、12号証の1、2、13号証、14号証の1、2、15、16号証、18ないし21号証を提出(17号証は欠番)。

(2)  証人大井芳広の証言。原告代表者、被告各本人尋問の結果を援用。

(3)  乙1、2号証の成立は不知、3、4号証の成立は認める。

(被告)

(1) 乙1ないし4号証提出。

(2) 被告本人尋問の結果を援用。

(3) 甲1号証の1の成立につき官署作成部分を認め、その余不知、同号証の2につき、本文中訂正個所の成立は不知、その余は認める。15、16、19号証につき、被告の印影部分の成立は否認(これは被告の意思で押捺されたものではない。)その余は不知。2号証の2、3号証、7、8、13号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

第1本案前の抗弁について

職権により按ずるに、一般に、「特許を受ける権利」の法的性質を如何なるものと理解すべきかは暫らくおき、特許法が上記権利は発明者において他に譲渡することができるとの建前をとつていることからすると(同法33ないし35条参照)、上記権利が一種の財産権として少くとも私的権利の側面を有していることは疑いを容れない。したがつて、もし発明者(本件では被告)と同人から当該発明について特許を受ける権利を譲り受けたと主張する者(本件では原告)との間で上記権利の譲渡の存否、効力等について争いがある場合には、上記権利を譲り受けたと主張する者において発明者を被告として裁判所に自己が上記権利を有することの確認を、求めることは私法上の権利確認の訴として当然許容されるべきである。

被告は上記のような確認訴訟には確認の利益がない旨主張しているが首肯し難い。けだし、原告の主張によれば、原、被告間には現在本件発明につき特許を受ける権利が発明者被告から原告会社に譲渡されたかどうかに関し紛争が存するというのであるから、いま上記権利の帰属者がはたして原告であるか否かを裁判によつて明確にすることは上記のような紛争およびこれに関連して派生する紛争の解決として最も直接的な方法と考えられるのであつて(派生的な当事者間の紛争として、本件発明の特許出願人は本来、原告、被告のいずれであるべきであつたか、それが原告であつたとして、被告の先にした特許出願に関連して原告が被告に対して何らかの民事上の責任を追求しうるかどうか、あるいは被告は原告に対し特許法35条3項所定の対価支払請求権を取得しているかどうか、等の点が考えられる)、このことこそ原告が本件確認訴訟について具体的な法律上の利益または即時確定の利益を有していることを示していると解すべきであるからである。したがつて、本件においては、原告がその反論として主張するような点(7 原告の反論の(1))、すなわち、原告としては本件特許を受ける権利の譲り受け(特定承継)時点が被告の特許出願前であるにもかかわらずなお出願後の承継人に与えられた承継手続(特許法34条4項の手続)を利用することができ、そのさいに要する「承継人であることを証明する書面」として本件勝訴判決を活用できる(特許法施行規則12条とそこに定められている様式第7参照)点において確認の利益が存するという主張がはたして正当であるか否かについてまで敢えて検討する必要はない。

また、被告はさらに自己の特許出願がいわゆる冒認出願(特許法49条4号、123条1項4号参照)であることを前提として、その是正は特許法所定の審査審判手続またはこれに続く行政訴訟によつてのみなされるべきで、本件訴訟のような一般民事裁判手続によつてなされるべきではない旨主張している。しかし、被告の本件特許出願がいわゆる冒認出願であるとする被告の主張の前提自体にも疑義がないではないこと原告主張のとおりであるし(7 原告の反論の(2)参照。出願人被告は発明者にほかならないのであるから、被告の出願は冒認出願の定義上その要件とされている「非発明者の出願」という要件を充たしていない。)、そもそも原告の本訴は前記のような被告の誤つた所為の是正のみを目的としたものとは解し難いこと前示のとおりである。したがつて、被告の前記主張も失当である。

以上のとおりであるから、被告の本案前の抗弁は理由がない。

第2本案について

1  請求原因(1)項(原告会社の業務等)、(2)項(被告の原告会社における経歴等)および(3)項(被告の本件発明とその特許出願)のうち発明の着手完成時期に関する部分を除くその余の部分はいずれも当事者間に争いがない。

2  原告は被告の本件発明は特許法35条1項所定のいわゆる職務発明である旨主張するので検討する。

本件発明がその性質上原告会社の業務範囲に属するものであることは被告もこれを認めて争わない。

そこで、以下、被告の「発明をするに至つた行為」がはたして原告会社における被告の現在(ただし、原告会社在職中の時点からみて現在)の職務に属していたか否かについて考えるに、本件では、被告は上記の点を強く否認し、ことに本件発明の着手完成時期について「連続混練機の構想は原告会社に勤務する以前から常々念頭にはあつたが、原告会社在職中は具体的研究の時間的余裕はなかつた。原告会社退職(昭和49年6月20日)後一挙にその構想を模型化し、約1週間後(同年同月27日)に一応完成し、やがて同年7月1日特許出願することができた。」旨主張し、被告本人尋問の結果も上記主張にそい、他に被告が原告会社在職中、その職務として本件発明に着手完成したことを裏付けるに足る具体的かつ客観的な事情、たとえば、被告が勤務時間中に本件発明に関し設計図や模型を作成し、実験する等の行為をしていたことを確認しうる証拠は全くない。したがつて、本件発明の職務発明性は発明の着手完成時期の点ですでにその要件を欠くためこれを否定すべきであるかのように思われる。

しかし、本件において前記の点を検討するについては次のような事情も十分考慮されるべきである。すなわち、

(イ)  たとえ被告の経歴職業が20年来この種混練機の設計に従事してきた専門技術者であること、および本件発明の特許出願手続自体はその道の専門家であある弁理士小谷悦司に依頼していることを考えに入れたとしても(以上、被告本人の供述によつて認められる事実)、成立に争いない甲6号証(本件発明の公開公報)によつて認められるような内容の本件発明が僅か1週間ぐらいの間でにわかに具体化し、完成し(被告は「一応の」完成であると弁疎してはいるが)、しかも、その後3日間ぐらいで前期公開公報に記載されているような明細書と図面が作成できたというようなことは、経験則に照らし、にわかに首肯し難いところである。この点については原告がその主張8(1)1において指摘する点すなわち(1)本件発明は単なるアイデイア発明ではなく、その実施例は細部構造に至るまで極めて具体的なものであること、(2)被告は必らずしも稀にみられるような多発明型の人物と認められる証拠もないこと等の点にも想到すべきである。

(ロ)  次に、もともとここに「発明をするに至つた行為」とは、発明が思想であり、人の知的活動の所産であることからして、主として思索的行為または精神的活動を指称するものと解すべきであり、その行為は本来客観的に捕捉し難い性質のものである。

したがつて、被告の本件発明の職務発明性の要件ことに発明の着手完成時期を判断するについては、単に被告本人の供述だけを資料とするのではなく、被告の原告会社在職中の所為を広く検討し、諸般の事情を総合考慮すべきである。

そこで、上記のような見地からあらためて検討するに、成立に争いない甲4、6、9、21号証、原告代表者本人尋問の結果によつて真正に成立したと認める同7、8号証、当事者間に争いのない被告の原告会社における地位および様式体裁を総合して真正に成立したと認める同15、16、19号証に証人大井芳広の証言、原告代表者、被告各本人尋問の結果(ただし、被告の分は1部)および弁論の全趣旨を総合すると、本件については次のような事情が認められる。

1 被告は昭和30年4月大阪府立今宮工業高校卒業以来、混練機(その内容の概略は当事者間に争いのない請求原因(7)①1参照)の設計に携わつてきた専門技術者であり、原告会社に勤務した以外にも設計事務所や同種の会社に勤務し、あるいは一時期独立自営してきたものであるところ、昭和43年1月26日原告会社に2回目の勤務を始めたのは、原告会社が同年初頭事業を拡大し三田工場を新設したのに伴い同工場次長の職につくためであつた(なお、原告会社は現在従業員約85名を擁する規模の会社である。)。

2 被告はその後昭和45年9月本社の設計課長に昇進し、同48年3月22日には組織変更により部員14名を擁する設計部の長となり、主として顧客の注文にかかる各種混練機の設計図作成の掌にあたり、その総括責任者として働らいた。

3 その間、原告代表者は昭和46年ごろ社の方針として混練機の改良を重視し、自ら連続混練機の構想を抱き、時に設計課員に命じてその具体化の想をも練らせていた。そして、従来機の欠点およびあらたに開発しようとする連続混練機の技術上の解決課題は請求原因(7)①1、2のとおりであり、また被告の本件発明の解決課題もこれと全く同一である。

4(イ) 原告代表者は昭和48年1月13日恒例の年初の合同会議の席上で、同年度の方針の1つとして「連続混練機の開発」を明示し、設計担当者を自己、被告、大井設計課員とすることを決定告知し、そのさい被告はもとより原告会社の幹部として出席していた。

(ロ) 被告の統括する設計部(主として大井部員担当)では直ちに別紙図面に表現されているようなテスト機(1号機)の設計図(部分図30ないし40枚および全体図)作成に着手し、同年10月早々に完成した。そして、被告は上記図面を査閲し検印も押捺している。

(ハ)  被告は同年10月3日、三田工場の富永製造部長宛テスト機を製作するように指図命令書を発している。

(ニ)  被告は昭和49年1月14日の年頭全体会議においても自ら近く連続混練機を実用化することを一同に述べ、2月ごろにはテストを終りたい旨も附加説明している。

(ホ)  被告はそのころ度々三田工場に赴きテストを親しく検分し、悪い点を指摘するなどしている。その結果テスト機は同年2月一応完成した。

(ヘ)  原告会社は上記テスト機の完成までに約2000万円の出費をした。

5 原告会社は常々顧客のニーズに応える必要上混練機の改良開発に資する目的で、従業員技術者のため社内に請求原因(7)③1で主張されているような各種専門書誌を常備し、また被告には特に同2のような社外見学をさせる等の便宜を供与してきた。

6 しかるところ、被告は同年4月ごろから原告会社懸案のテスト機について質問意見などを出さなくなつた。そして、同年5月18日の会議の席上突然退職すると言い出し、慰留に対してもかなり興奮した態度でこれを聞き容れず、結局、7月には支給されることがわかつている約50万円のボーナスの受領直前の段階である6月30日に退職してしまつた。被告は退職の理由として「このまま在職しては原告会社のためにならん。商売をやりたい。」等と述べるだけであつた。

7 被告は本件発明について特許出願をした後その実施品の完成に努め、やがて昭和50年2月12、13日の両日大阪国際貿易センター1階(同4階に原告会社本店がある。)においてこれを「KCK連続混練装置」と銘打つて発表実演会を開催したが、その直前である同月1日付の業界誌によると被告の上記装置は「被告において一昨年(昭和48年)から研究に着手したものである。」要旨のことが報ぜられている。

以上の事実が認められ、上記認定事実に反する被告本人尋問の結果は前掲各証拠に照らし措信せず、他に上記認定事実を左右する証拠はない。

そして、以上のような事情を彼此総合すると、

(1) 被告は原告会社の本社設計部長として混練機ことに連続混練機の改良発明を試みさらに効率のよい機械にするように努力すべき具体的な任務を有していたもので、本件発明はまさに被告の職務の1つとして期待されていたものであることが明白である。

(2) また、本件発明の着手完成時期についても、結局、前記被告本人の供述はとうてい信用することができず、かえつて本件発明は原告が主張するとおり被告の2回目の在職期間中に着手完成されたものであると推認するに十分であり、ただその具体的な時期を明確な日時をもつて特定できないだけであると考えられる((イ)被告が古くから石臼の原理を連続混練機に応用する一般的な構想を有していたとしてもその時点を本件発明の着手時期とすることはできないし、(ロ)また、被告は、本件発明は未完成であるかのように主張し、被告本人も「真に完成された発明はその後昭和50年11月25日に特許出願した特開公52―65360―成立に争いない乙4号証―の発明である。」と供述している。しかし、被告の主張自体によつても本件発明の実施品は「材料の流れが思わしくなかつた。」というだけで、それに単に作用効果が期待したほどでなかつたといつているにすぎず、発明の未完成を述べたものとは解されないし、本件発明の公開公報―甲6号証―をあらためて検討しても、とうていそのようには解されない(「発明の完成」について特許法2条1項、29条1項柱書と最高裁昭和52年10月13日判決裁判所時報727号126頁参照。前記後願発明は完成された本件発明の改良発明であると理解すべきである。)。

(3) なお、発明場所についても、被告の本件発明に関する思索、理論的追求、文献調査等の精神活動のうち相当程度の部分はさきに認定したような原告会社の便宜供与等を背景としてほかならぬ原告会社の勤務時間中になされたと推認すべきである(一般に発明の職務発明性を肯認するためには、思索等の行為がすべて勤務時間中になされることは必要でない。別紙国家公務員の職務発明に対する補償金支払要領―52特総第1411号昭和52年12月27日―の1条参照。ことに、本件のように本来その職責上会社で公にしてなすべき事柄をことさらひそかになしたとみられるような場合においては、当該思索等が相当程度勤務時間中になされたと認められるだけでその職務発明性を肯認するに十分であると考える。また、被告は、本件発明の構成要件および作用効果ことにそのこねまぜ作用が原告会社のテスト機の構成および作用効果と異なることを強調しており、その主張は両者の比較論としては正当な部分を含むけれども、本件においては、テスト機の本件発明(の構成要件)該当性を検討しているわけではないから、その主張のような相違点の存在によつて前記認定判断を左右することもできない。)。

そうすると、被告の本件発明をするに至つた行為は原告会社における被告の現在の(ただし、原告会社在職中の時点からみて現在の)職務に属していたものと解すべきである。

結局、本件発明を、職務発明であるという原告の主張はこれを肯認することができる。

3 次に本件発明に関する特許を受ける権利が被告から原告会社に承継されたか否かについて検討する。

被告が原告会社に在職中、原告会社に就業規則が存在し、その中に請求原因(5)のような定めがあつたことは被告もこれを認めて争わない。そして上記の定めが従業員であつた被告をも拘束するものであつたことは明らかである。

そこで、上記の定めの趣旨について按ずるに、上記規則の文言は簡略で不正確のそしりを免れない部分もないではないが、これを社会通念に照らし合理的に解釈すると、これは要するに「(イ)従業員が事業上発明(考案)を完成したときは、当該発明(考案)について調書を作成して会社に提出する義務があること。(ロ)従業員が事業上発明(考案)を完成したときは、当該発明(考案)に関し特許(実用新案)を受ける権利は、別段の契約を締結するまでもなく当然に当該発明(考案)者たる従業員から会社に移転すること。」をあらかじめ定めたものと解することができる。

そして、上記にいう「事業上発明」とはいわゆる業務発明に近いものを指し、職務発明より広い概念であると解されるから、上記規則の定めは、事業上発明のうち職務発明を除くその余の発明に関する定めとしては、特許法35条2項に照らし無効であるが、職務発明に関する定めとしては有効に従業員を拘束するものというべきである。上記に反する被告の主張6(2)1の見解は採用しない。また、上記規則は承継予約を定めたものではなく、当然承継を定めたものと解すべきこと前示のとおりであるから、規則のほか別段の本契約が締結されていないことを根拠として承継未了をいう被告の6(2)2の主張も失当である(なお、当然承継の定めが権利発明者帰属主義に反するものとは考えられないし、特許法35条2項に違反するとも解されない。また、被告は前記主張に関連して、もし、上記規則を当然承継の定めと解すると、原告会社は不要の発明に関する特許を受ける権利まで取得することになり不合理である旨主張しているが、上記の定めは会社の権利を定めたものであつて、義務を定めたものではないから、会社としては取得した特許を受ける権利を放棄することも可能であると考えられるし、また取得した権利を行使するかしないかは会社の自由に属すると解しうるから、特段被告の主張するような不都合は生じないと考える。)。また、原告が特許を受ける権利を取得したときは被告に対し相当の対価を支払う義務の存することは被告所論のとおりであるが(特許法35条3項参照)、承継を約するにさいし必らず上記の義務について同時に何らかの定めをしなければならないものでもないし、また本件特許を受ける権利の移転は特段発明者の履行を必要とせず、前記規則の定めにより観念的に当然移転すると解すべきであるから、上記権利の移転が何らかの意味で相当対価の支払義務と同時履行の関係に立つというようなことは考え難いところである。したがつて、被告の6(2)3および4の主張も失当である。

そうすると、被告の本件発明につき特許を受ける権利は、前記就業規則によつて、被告が原告会社に在職中、被告が発明を完成するとともに被告から原告会社に移転したというべきである。

第3結論

よつて、原告の本件確認の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して主文のとおり判決する。

(畑郁夫 中田忠男 下圷真史)

<以下省略>

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